大判例

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最高裁判所第二小法廷 平成5年(行ツ)76号 判決

東京都中央区日本橋小網町一九番五号

上告人

丸紅建設機械販売株式会社

右代表者代表取締役

尾地和男

千代田区神田駿河台四丁目二番地八

上告人

高砂熱学工業株式会社

右代表者代表取締役

石井勝

千代田区大手町一丁目七番二号

上告人

株式会社東京ライニング

右代表者代表取締役

金井邦助

横浜市中区山下町七三 山下ポートハイツ九〇四号

東洋ライニング株式会社破産管財人

上告人

田子璋

同所

松田信一破産管財人

上告人

田子璋

右五名訴訟代理人弁護士

石川幸吉

同弁理士

佐々木功

名古屋市南区三吉町四丁目七三番地

被上告人

日本施設保全株式会社

右代表者代表取締役

伊藤晏弘

右当事者間の東京高等裁判所平成三年(行ケ)第二号審決取消請求事件について、同裁判所が平成五年一月二一日言い渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人石川幸吉、同佐々木功の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決の法令違背をいうものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河合伸一 裁判官 中島敏次郎 裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治)

(平成五年(行ツ)第七六号 上告人 丸紅建設機械販売株式会社 外四名)

上告代理人石川幸吉、同佐々木功の上告理由

第一.原判決は、当事者の主張せざる事項につき、証拠に基づかずに認定された事実に基づいてなされたもので、民事訴訟法第一八五条、第一八六条に違反し、更に同法第三九五条一項六号に該当するものである。

一.即ち、原判決は甲第一号証の「第1図においては、塗料は加圧されることなく、いわゆるタレ流しの状態で支管3から管1内へ供給されているが、他の方法として、塗料に圧力を加えて管内に設けられたノズルから塗料を噴霧状で供給し、これを支管2からの旋回ガス流に乗せて管1の内面に吹きつけて塗膜を形成させることもできる。供給ガスはそれほど高圧である必要はなく、たとえば1kg/cm2程度の圧力であっても、きわめて短時間で長尺管の他端まで塗料を搬送して、管の全内面を塗装することができる。」(二頁左上欄下から四行ないし右上欄七行)の記載(原判決30丁裏)(以下タレ流し記載という。)から、「甲第一号証の発明には塗料を噴霧状にして送出するものだけでなく、粘度の高い塗料をタレ流しにして、旋回ガス流により送出する方法を含むものである。」(原判決33丁裏から34丁表)と認定し、この認定に反する原審決の認定を事実誤認であるとして原審決を取り消したものである。

二.しかしながら、原審において被上告人が審決の取消事由として主張した事由は、原判決の事実摘示によってすら明らかなように、(1)「エポキシ樹脂塗料は旋回運動する圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送出されるようになっていること」を本件発明の必須の構成要件と認定したことの誤り、(2)「エポキシ樹脂塗料は旋回運動する圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送出されるようになっていること」が、公然実施されていたとは認められないとした判断の誤り、(3)特許法第一五三条に基づく特許無効理由通知書に対する被告提出の意見書副本が原告に送達されていないことによる原審決の手続違背の三点であり、甲第一号証のタレ流し記載によって、甲第一号証発明が本件発明と同一であるなどという主張は全くなされていないものである。

しかも、何回にもわたった準備手続においても、裁判所からタレ流し記載についての釈明は全くなく、原判決の理由とされている事項については話題」などという記載は全くなく、「塗料の粘度」についてさえ記載は全くない。原判決の右認定について唯一甲第一号証に記載されているものは、前記タレ流し記載であるが、この記載は次に述べるように「塗料の供給方法」に関するもので、塗装方法としては「塗料を噴霧状にして旋回ガス流に乗せて管内面に吹きつける」ことが前提となっているものである。

三.甲第一号証発明の出願が、一発明一出願の原則により発明の数1として出願されたものであることは、甲第一号証自体によって明らかである。

したがって、原判決指摘のタレ流し記載によっても、塗装方法としては一つでなければならないから、塗装形態としての「塗料の旋回ガス流による搬送形態」は「噴霧状で搬送されて塗装される」のか「タレ流しのまま、旋回ガス流により送出する」のかのいずれかである。

しかし、タレ流し記載には「他の方法として・・塗料を噴霧状にして供給」することも記載されているのであるから、一旦噴霧状で供給された塗料が搬送時にタレ流しによる供給と同一になると認定されるのであれば、何故、供給時にわざわざ圧力をかけて噴霧状にするのであろうか。甲第一号証発明は方法の発明であり、一つの発明であるから少なくとも塗料の搬送時における形態は同一でなければならない。選択的な供給手段として全く意味の無い他の方法を記載する筈はないから、「噴霧状で」の記載は、タレ流しによる供給塗料が旋回ガス流によるスプレー現象によって噴霧化されることを前提として、他の方法として最初から噴霧状で供給してもよいとしているのは、余りにも明白である。

原判決の右認定は、全く証拠に基づかずに行われたもので、証拠裁判の原則を覆す重大な違法性を持つものである。

四.更に原判決は、甲第一号証の発明について同号証に記載された発明の「塗料の供給」と「塗装の技術」についても次のとおり自然な文脈からは到底認定し得ない事実認定をなしている。

(1) 事実

〈1〉 塗料の供給は、「噴霧状」の態様と、「たれ流し」の態様とがあること

〈2〉 塗装の技術は、「吹き付け塗装」であること、

が同号証の明細書の記載からして真正な事実である。

(2) 判決が事実誤認した点

〈1〉 先ず第一に、塗料を「たれ流し」で供給する場合の塗料の粘度についてである。

即ち、「たれ流し」の塗料の供給態様を直ちに「粘度の高い塗料」に結びつけて認定した点に根本的な事実誤認が生じている。

塗料の粘度が高くても低くても「たれ流し」の状態で供給できることは、極く常識的に理解できるところであり、塗料の粘度についてたれ流しであるから「高い粘度」と認定される理由は全くないのである。

判決においては「粘度が高い塗料を用いることが可能な、塗料を「たれ流しの状態」で供給する方法を含んでいるのであり、」(判決第31頁表面4~5行)と認定しているが、その認定は塗料の供給と一連に行われる塗装技術を正確に理解した上で、供給される塗料の粘度をついて判断しなければならなかったのに、その塗装技術の理解を怠った点に明らかな事実誤認がある。

つまり、塗装技術によって供給される塗料の粘度が決定されるのであり、塗装技術を無視して塗料の粘度を判断した点に重大な誤りがある。

〈2〉 第二に、塗装技術についてである。

甲第一号証における塗装又は塗膜を形成する手段は、当該技術分野において極く常識的に認識されている塗料を噴射状にして吹き付ける所謂「吹き付け塗装」でしかないのである。

同号証の技術的説明においては、塗料の供給について「噴霧状」の態様と「たれ流し」の態様とが説明されているけれども、塗装又は塗膜を形成するための技術的説明では「吹き付けて塗膜を形成すること」しか説明されていないのである。

即ち、同号証の第1頁第2欄第28~29行の記載

イ、「この旋回ガス流に乗って管1の内面に吹き付けられ、内面を塗装するのである。」

第1頁第2欄第35~37行の記載

ロ、「ガス供給(噴射)時の吸引効果によって塗料も左方に吸引され、旋回ガス流に乗って管11の内面へ吹き付けられる。」

第二頁第3欄第5~7行の記載

ハ、「これを支管2からの旋回ガス流に乗せて管1の内面に吹き付けて塗膜を形成させることもできる。」

第二頁第4欄第11~15行の記載

ニ、「ついでガス及び塗料の供給を開始すると、管1内には旋回ガス流が生じ供給管7内を流下する塗料はその先端部でガス流に乗って管1の内面に万遍なく吹きつけられて塗膜を形成する。」

としており、塗装及び塗膜の形成技術において、共通していることは「乗って」と「吹きつけ」である。

この技術的に共通する「乗って」と「吹きつけ」と云う自然法則に基づく物理的現象は、旋回ガス流中に塗料が噴霧状になって混在しているからこそ「乗って」いるものであり、同時に、一般常識として認識されている噴霧状にして「吹きつけ」ることの物理的現象が成り立つのであり、「吹き付け塗装」技術が確立されていることの証左である。

特に、前記ロの「ガス供給(噴射)時の吸引効果」は紛れもなく霧吹き現象を利用したものであり、前記ハにおいては「塗料を噴霧状で供給すること」が前提になっており、また前記ニにおいては「管7の先端部で」ガス流に(吹かれて噴霧状になって)乗る、ことの説明からその技術的根拠が明らかであり、それ以外には技術的な説明がつかない。

従って、塗料の供給において「たれ流し」であっても、塗装手段が「吹きつけ」であるから、旋回ガス流に乗るための「噴霧状」になる程度の粘度が絶対的なものとなるのであり、噴霧状になって旋回ガス流に乗らず且つ吹きつけができない高い粘度の塗料は、技術的に実施の対象になっていないのであるから、最初から除外して認定されるべきである。

(3) 判決が認定した誤り

判決は前記事実誤認した点は、明細書中に記載してある「吹き付け塗装」の技術的説明を無視し、塗料の供給に関する「たれ流し状態」を唯一の拠りどころとして「粘度が高い塗料を用いることが可能な、塗料を「たれ流しの状態」で供給する方法を含んでいるのであり、」としたことであり、それによって甲第一号証について「粘度の高い塗料をタレ流しにして、旋回ガス流により送出する方法を含むものである。」とした認定が重大な誤りになっているのである。

第四.原判決は、特許庁による原審決を違法性を理由とせず、行政庁たる特許庁の専権に属する技術的範囲の認定誤認を理由として取り消し、更に証拠に基づかない一方的な技術的範囲の認定を行って、行政庁による行政行為たる設権行為を規制し、しいては、憲法第二九条によって保障された上告人の財産権たる特許権を正当な手続によらず一方的に剥奪しようとするものであり、憲法第六五条、第二九条に違反するものである。

第五.原判決は、原審訴訟手続において、全く攻撃防御の対象とされなかった甲第一号証における「タレ流し記載」の記載を理由として、上告人にはこれに関する釈明の機会も与えず、これを支持する証拠もないまま一方的に独自の認定を行って上告人に不利な判決を行ったものであるから、正当な裁判手続による裁判ということはできず、憲法第三二条によって上告人に保障された裁判を受ける権利を侵害するものである。

一.特許発明の技術的範囲は、明細書の請求範囲の記載に基づいて定めなければならないことは、特許法第七〇条に明記されているところである。

ところが、原判決における甲第一号証発明の技術的範囲の認定は、明細書に記載されていないことを理由として、その技術的範囲を違法に拡張しているもので、裁判が法律に基づいて行われなければならないとする基本的要請が無視されている。

二.即ち、「甲第一号証には、その発明に用いる塗料の種類については何ら記載されていない」ことは、原判決が認定(28丁裏6行目)しているところである。ところが、原判決は甲第一号証発明の使用塗料を甲第六号証によって一方的にエポキシ樹脂塗料と断定し、塗装方法を特定する基本的要素である塗料の搬送形態、塗料の粘性度、塗装能率(時間)について、甲第一号証に何ら記載のないことを理由として、如何なる塗料の搬送形態、塗料の粘性度、塗装能率であっても、その技術的範囲に属するとしているのであって、明示の記載によって法的安定性を維持すべき法治主義の原則が無視されたものといわざるを得ない。

三.もともと、甲第六号証はSDOコートと称される特定の水道用エポキシ樹脂塗料の説明書であって特定の塗装方法と結びつく必然性はなく、当時管内面塗装にエポキシ樹脂塗料以外の塗料は用いられていなかったとの記載もない。しかも、甲第六号証は水道管の内面塗装に限定されているのに、甲第一号証発明は水道管以外のパイプラインを含む広い範囲の管の内面塗装方法とされていることからしても、甲第六号証によって甲第一号証発明の使用塗料をエポキシ樹脂塗料に特定することは、国民の一般的期待を裏切る条理外の判断といわざるを得ない。

以上

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